この小説は生死が関わってます。
苦手な方はおやめ下さい。










ああ、僕はなんて滑稽なのであろう。








a cat of
eleanor rigby
and
schrodinger








有る夏の日、一月前から付き合い始めた彼女に初めて呼び出しをされた。
簡潔にメールで


――すぐに会いたいです。
  高架下の雑木林に来て下さい。


それだけ。時間は多分19:00ぐらい。 何時も僕から行動を起こさないと何もしない彼女が初めて僕に何かしてと頼んできたのだ。 僕は自分で思っていたより舞い上がっていた。
どうして薄暗いどころか暗い雑木林を指定したのかとか、どうして今じゃないと駄目なのかとか 考える余裕なんて一切合切無かった。
僕は自転車を車庫から出して左右の足を交互に動かし嬉々として走っていった。




蝉がじわじわと五月蠅く鳴いていた。




彼女は既に待っていて猫を抱えていた。



猫は死んでいて彼女の腕にはガーゼが所々にテープを使って貼ってあり、 よく見ればうっすら血が滲んでいたし、ガーゼに納まらなかったところは引っ掻き傷が覗いていた。


「にゃんこが死んだの」



彼女は虚ろな目で僕に訴えた。



「にゃんこが死んでいたの」



僕は彼女が抱えている猫をまじまじと見た。
体全体が真っ黒で、足先だけ白い靴下を履いていた。 どう見ても寿命で死んだようには見えなくて、人間の手で殺されていることがわかるような猫だった。


「どうしよう、にゃんこがしんでいるの」



彼女の声には悲しみが感じられたけど、彼女の目には涙も悲しみも無いように見えた。
僕はお墓を掘ろう、埋めて黙祷しよう。そう提案して一寸太めの木の枝で穴を掘って猫を埋めて俯いて手を合わせた。


「ありがとう」



彼女がそう言ってくれた。僕は昇天できるかもしれない。 だけどまだあの虚ろな真っ暗な目をしていた。





蝉の声が死ね死ね死ね死ねと聞こえたのは気の所為である。












夏休み中僕は部活が忙しくて彼女に殆ど会えなかった。





夏休みが明けて久しぶりに授業が有った日の昼休みに二度目の彼女からの呼び出しがあった。 もっと僕に迷惑を掛ければいいのに。


――屋上で待ってます。



屋上にすぐ僕は駆け上がっていった。友人が(マブダチ。もしかしたらオニダチかも)お前は馬鹿だみたいな事を 言ってたけど無視して、購買に行くであろう階段を下りてる人を掻き分けて駆け上がっていった。


彼女は柵の向こう側にいた。



僕は気が気じゃなかった。だけど彼女は僕に気がつくと、柵を越えて僕の方に来た。 まるで同じ土俵の上に立つように。


「あのね、猫、埋めたでしょ」



にゃんこって言ってたのを急に思い出した。



「あの猫ね、私が、殺したんだよ」







「気づいてたよ」







そんなの彼女が猫の首を殺して猫が抵抗して彼女の腕を引っ掻いたって事ぐらい気づいてた。


「紫香楽くん、私は初めて恒温動物を殺しました」



なんでそんな言い方をするのだろう。



「紫香楽くん、私は初めて恒温動物を殺しました」



なんで繰り返すのだろう。



「紫香楽くん、私は…」



「僕は久谷さんに初めて呼び出されました」



僕は耐えれなかったから遮った。



「僕は久谷さんに初めて呼び出されて、頼りにされて、喜んでました」



本当のことを言ってみた。



「僕は久谷さんに初めて呼び出されて浮かれて久谷さんに嫌われてくないから久谷さんが猫を殺してないことにしました」



それだけ一気に言って僕は俯いて押し黙った。



「紫香楽くん、私は自分がやったことが本当に悪いことなのかわからないです」



そう言うと彼女は声を出して泣き出しました。

僕は彼女が泣く姿が痛々しくて抱き寄せました。

彼女は僕の背中に腕を回してひしっとYシャツを掴み、より一層声を大きく泣くのでした。





窓の開いた教室から昼の放送であろう、BEATLESのEleanor Rigbyが漏れてきて呆然と聞いていた。 放送部にBEATLES好きがいたなぁとか考えて何でこの選曲なのであろうとか考えて。
僕の彼女は孤独な人たちに当てはまるのであろうとか考えてた。




僕はなんで彼女が猫を殺したのか気になってしまった。 そしたら彼女は嗚咽混じりの酷く聞き取りづらい話し方で


「だって、寂しかったの」



「紫香楽くんに会おうと思ってメールしようって決心して携帯電話を手に持つの」



「そしたら急に紫香楽くんは部活があって忙しいから」



「連絡したら駄目だよって」



「頭の中で思ったの」



「だから、寂しいのを紛らわすために猫は死んでも死なないみたいなこと言われてるから」



「猫の首を絞めてたの」



と言っていた。



「だけど、猫は生き返らなかったわ」



と最後に呟いていた。






僕の彼女は猫を殺した道徳的に悪い子です。だけど法律的には裁くことは不可能に近いでしょう。 猫は野良だったから。彼女は反省しているから。






僕は彼女が大好きでしょう。 だって彼女が僕を頼ってくれるから。







悪あがき

大抵、こういう話は陰鬱な気分の帰り道で思いつきます。
愛猫家に怒られてしまいそうですが、猫というのが一番しっくり来たので猫に。
猫という生き物はかわいそうな物でして、壁に埋められたり、意地悪っぽいイメージがついてたりする物です。
いいわけです。はい。
蝉の鳴き声が死ね死ねと聞こえるのも陰鬱なときだけです。

彼氏はしがらき
彼女はくたに
焼き物カップル。

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