昔、あるところに魚がいました。
昔、あるところに女の子がいました。




始祖鳥 Archaeopteryx lithographica





生物の教授は元々地学者。
宇宙の神秘より古代の浪漫がお好みで。


*

学校は好きじゃないな。
楽しくないわけぢゃないけど、窮屈だし、
何より嘘吐きが別砂の隣席を全て奪っていくし。

知古は脳裡を過ぎった虚言回しを終わらせ、教授の話に耳を傾けた。
教授は黒板に2メーターは有るだろう紙を貼り付け、皆によく見えるようその脇に立ち熱弁していた。



「ラティメリア カルムナエ。大分昔からいる進化し損なった魚だ」



そんな物見せたって知古は古代の浪漫とか感じたりはしないし、興味も余り湧かない。
又しても席替えで、隣席をとれなかった右斜め前に座っている 別砂の顔を覗いてみると、別砂は普段の意識の薄い目を輝かして真剣にその魚のモノクロコピーを見ていた。



「全長は180センチメーターほど、大体実物大だね」



場所を喰って仕方がないような物をこの教授は好きなのか、何時も作ったり買ったりして持ってくる。 前に教授のお部屋に御邪魔したときなど、3年近く前のレシートを見つけた。



「此処の鰭を見てご覧、まるで脚のようだろう?」



教授は熱弁を続けながらポインタで鰭を指す。その後彼らが陸から戻った生物なのだと続けていた。
知古はその間も、普段とは違う別砂の様子を見ていた。

別砂の隣席の狭乃が別砂の方をちょんちょんと突いた。すると別砂は普段の意識の薄い目で狭乃の方を見た。


「ベ ッ サ 、  面 白 い  ?」


狭乃が声を出さず口を開閉して尋ねる。すると別砂はちょこんと首を傾げ、進化し損なった魚を又、見つめだした。




+ + + +




魚は網に捕まりました。
女の子は街に捕まりました。


*

狭乃が明日は雨だと言っていた。

彼の天気予報が当たるのを嫌と言うほど思い知っていたので 知古は別砂を狭乃に任せて、彼女の長靴を買いに行く。


靴屋の女将さんはこっちの事情なんて知りもしないだろうが、 知古が長靴を買いに来る度、翌日は雨天なので ああ、久し振り。明日雨なのね?と言って長靴の箱を少し出してくれる。


別砂は雨が降る度、長靴を駄目にした。 その度に知古はため息をつき、靴の中に侵入した水で湿った靴下を脱ぐ別砂に呆れ隠せずにいた。


街は殆ど水面と同じ高さなので直ぐに水が溢れたし、 誰も堤防を作ろうと思わないかのように、家々は高い台を築いてその上に建っていた。
雨の日は皆外に出ようとすら思わないし、 出ても仕事だったり、学校だったりと義務的な事であった。


しかし、別砂は雨の日に外へ散歩に行く。 それは下校時に森へ吸い込まれそうになるのと同じように 雨の日は別砂は外へ吸い込まれるかのように散歩に行き、 長靴をはきつぶしてくるのだ。



「これなんかどう?」
「最近出てきたばかりのデザインなのだけど?」


女将さんが聞いてきた長靴は青く、ワンポイントに魚の絵がついていた。



「じゃあ、それにします」


知古はそれを一目見て別砂に似合う青に違いないと思い、 即決でそれを購入した。



NEXT::7. スー Tyrannosaurus rex



















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送