何もない部屋に行きたい




白い部屋を買ったそれの話

シロイ ヘヤ ヲ カッタ ソレ ノ ハナシ




引っ越しをする。

やっとたまった財産を叩いて引っ越す。

この部屋は嫌いではないが、今の気分じゃないから違う所に行く。

この部屋は貸りている訳ではないので、しばらくこのままにしておくつもりだ。




新しい部屋には台所と居間とトイレしかない。

だから、椅子とテェブルと冷蔵庫を持っていく。

風呂は銭湯に行けばいい。当たり前だと思う。




部屋は白い。ちょっと有名なデザイナーのデザインで

床はチェス盤の様にモノクロの市松模様だ。

だけど、壁全面が白いから、白い。僕は白い部屋を買ったんだ。




思うに自分は馬鹿だと思う。

郵便通帳の最高保持数まで持っている。

生活費用と引っ越し費用。後一つは何かのためにある。

全部暗証番号は変えてある。生活費や何かのためと言うのは

他の他人も持ってるかもしれないけど、引っ越し費用というのは

自分しか持っていないと言う自負がある。

だけどなんで自分が引っ越しをするために引っ越しをするたびに、

また、それを貯め直すのかがよく分からない。




引っ越すと決めた時、雨で憂鬱で物事が思う通りに行かなかった時だ。

何もない部屋に椅子とテェブル、冷蔵庫を置いて

三日に一度程度の食事外にはバイトと講義がある時と

外に用がある時にしか行かないよな生活がしたくなった。

丁度溜まっていたのだ。余る程度に、引っ越し費用が。

そのあとの行動は自分で言うのも何だが




早かった。




好みの部屋を探しに




今いる所より遠くへ




今いる所から遠くへ




探しに行った。




三日目で見つかった。講義は二回ほどサボった。

自転車を走らせて探した。四階建てのマンションの四階。

ちょっと有名なデザイナーがデザインしたが幽霊が出るとか北向きだとかで

安くなっていた、一室を買った。前より大学に近い所だった。

バイト先からは遠くなった。違うバイトに変えようか迷った。




そして、引っ越した。

椅子と膝の高さの冷蔵庫は前の部屋にあった物を。

前の部屋には好みのテェブルは無かったので

引っ越して椅子と冷蔵庫を置いて近くのホームセンターで組み立て式のを

引っ越し費用の余ったので買った。なかなか良いヤツだ。




実際思った様に暮らした。人付き合いが極端に減った。

部屋にいる時は大方腹這いになって頬を冷たい市松模様の床につけ、

寝てるのか起きているのか判らない気分で過ごした。

食事は果物をよく食べた。高いけど水分が多くて美味しい。

ちょっと思い立って携帯を解約してきた。

バイト先の上司が少し困った顔をしていたが、

家にいない時はバイトと大学なので、大体家にいる時間は決まっていたので

あまり困らなかった。

大学に自転車で行ける距離だった。通り道に図書館があったから寄り道した。

通り道に気になる古書屋があったから寄り道した。その日は鞄が重くなって部屋についた。

朝は早く起きて夜は早く寝た。銭湯は二日か三日に一回、

バイトのある日の前日は必ず行った。

大学もバイトも休みの日は、部屋の中で借りたり買ったりした本を読んだ。

外に出て近所の商店街で果物を買った。缶詰の果物が気になったから買った。

果物以外も食べたかったからヨゥグルトを買った。

大学の同じ講義を受けていて仲の良いヤツにちょっと来いよと言われて

一緒に飲みに行ったけどアルコールは飲まなかった。

デザァトのミニパフェが美味しかった。




おまえ携帯解約して、連絡しにくいよ




とか言われたけど、バイトと大学以外は殆どどこにも行ってないし、

一人暮らしだからとか言い訳しておいた。




ある日突然映画が見たくなった。

古いヤツだ。この部屋にはテレヴィジョンは無い。

当然ビデオを再生する術はない。前の部屋に見に行こうかと思ったが、

前の部屋のを持ってきて床にテレヴィジョンを放置するのもまた一興と考え、

PS2とテレヴィジョンを取りに帰った。重いから電車に乗って行った。

前の部屋の近所にあるレンタル屋で映画は借りた。

二週間ほど見に来てなかったのもあって前の部屋はかなか汚かった。

掃除をした。ビデオは一週間後に返すので一週間経ったらまた来て掃除することにした。

綺麗になればいい。



一ヶ月ほど経った頃、女の子に告白された。

何でも僕のことが前から気になっていたらしい。

仲の良い友人やバイト先の上司に意見を求めた。

揃いも揃って付き合えばいいじゃないかと言った。

別に嫌いでもないし可愛い娘なんだろ?

とか聞かれて頷いてしまったのもあるかもしれない。

まあ、一理あると思い付き合い始めた。



彼女が僕の部屋に来た。




何もない部屋だね




そう言う風に思って住んでるんだから

そう言い合った。




夕飯作ろうか?

とか聞かれた。一瞬迷った。




買い出しから始めないといけないよ

と一応聞いてみた。




冷蔵庫の中には記憶では

桃の缶詰とヨゥグルトしかないはずだ。




そうなの?




うん、見る?冷蔵庫




ううん。じゃあ、行こうか。何が食べたい?




得に思いつかないや。




ふーん。お米とか無いね。何食べてるの?




果物。




へぇ、ベジタリアンならぬフルーリアン?




変なの。




良いじゃない。分からないもの。




一通り会話をした。

鍋とかは前の部屋にあるから前の部屋で作ってもらうことにした。

自転車で二人乗りだ。荷物台にバスタオルを折りたたんで座布団代わりにした。

途中の商店街で材料を買った。




さっきの部屋より生活感があるね。




そうかな。




ふふふ


何がおかしいのか分からないけど、彼女は笑った。

彼女が親子丼食べたいなぁと言ってたので親子丼になった。

炊飯器はつい最近汚れが目立っていたから洗ってばかりだったので

白米の小さい袋のを買って炊くことにした。

彼女は鼻歌を歌いながら手際よく親子丼を作っていく。

僕は米をといでセットする。三十分ぐらいかかるだろうか……




米がやわらかすぎた。




水入れ過ぎちゃったみたいだね。具は美味しいのに残念だよ。

僕はちょっと項垂れた。




いいのいいの。一緒に作れて食べれたんだから。

そう言ってまた彼女は笑った。




遅くなったから送るよ。僕も帰らないといけないし。




ありがと。そうだね。

そう言って二人でクスクス笑った。




帰りは本や映画の話で盛り上がった。




僕は部屋に帰った。

生活感の少ない部屋を見渡した。

冷蔵庫のブーンという機械音と時計の秒針の音がした。




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