僕と彼の違いといえば、
カレーのことは外せないね。




アンモナイト Ammonite





もし、好きな人が急に変わったらどうする?
もし、片思いの人が急に変わったら……。


*

私、霧島紗緒は一途に恋をする。 LikeかつLoveである。もうべた惚れだ。

―――――ALL一方通行だけど。





狭乃くんは勤労学生だ。 学校の外では、大抵労働に殉じている。
私とは大違いなのだ。



(私はだらだらと部屋に籠って、本を読んだり、友達と駄弁ったり、偶に真面目に宿題したり、 狭乃くんについて考えて寝ちゃったり……)


そんな私とは大違いなのだ。





狭乃くんは、朝新聞配達して昼は学校、夕方は寮母の手伝い、 夜は(噂だけど)電報配達の手伝いをしているらしい。 (夜の電報配達の手伝いっていうのは昼と比べると倍近く収入が違うらしい) (数は週にニ、三通ぐらいみたいだけど…)
(それにしても狭乃くんはいつ寝ているんだろう…?)







だけど、狭乃くんは変わってしまった。



―――――去年の夏。夏季休暇の真ん中らへん。

盂蘭盆のおわりらへん。―――――



私の記憶にいない人が現れて。




+ + + +




私の違和感は私だけの違和感で
彼の違和感は彼だけの違和感で


*

夏の真ん中、昼は蝉がじりじりと煩く鳴いて夜は知らない虫がじーじー鳴く頃、 彼女は私の前に、狭乃くんの隣に突如現れた。
何事もなく、注意していなければ「何か変だな」ぐらいではっきりとその違和感に気づくことはなかっただろう。 もし、彼女が狭乃くんではなくてもっと違う誰か(例えば隣室の彬だとか)の隣に現れていれば 私は「何か変だな」で終わらせていたと思う。
(そう考えるとつくづく私は狭乃くん中心でしか動いていない)

その子は銀鼠色をした髪を二つのお下げにして、殆ど意識のないような眼で狭乃くんの隣にいた。 私は初めてみる子だなと思って、転校生と決め付けた。
狭乃くんは世話見がいいからきっと相手を頼まれたのだろう。 彼女の向かいには知古が座っていて、狭乃くんを殺さんとばかりに睨めつけていた。 (彼女は狭乃くんが大嫌いだ)(私には理解できないけど)
私は空いていた知古の隣に座った。(ちょっぴり怖かったけど)

「おはよう、狭乃くん、知古」
「おはよう紗緒」
「紗緒さんおはよう」
「おはよう紗緒さん」


知らない子に当然のように名前を呼ばれた。


「あれ、君転校生じゃないの?なんで私の名前知ってるの?」


思わず、言ってしまった。


「何を、言ってるの紗緒?別砂は前からいたじゃない。」
「紗緒さん大丈夫?ねぶそく?」


知古と知古に別砂と呼ばれた子が言ってくる。 だけど私は別砂という子を知らない。
昨日まで狭乃くんの隣にはいなかったし、もっと別の誰かがいたと思っていた。 その狭乃くんといえば、一寸難しそうな顔をして何かを考えているようだった。 (そんな顔、かっこよすぎる!!!)


そんなこんなで学校に行く、路面電車は学生でいっぱいだった。 偶々、狭乃くんの隣に立っていたら、狭乃くんが声をかけてくれた。
(ありえなーい!)





「ねえ、紗緒さん。朝ってどこに行ったか知らないかい?」










「朝?いま、朝じゃないですか?」


あまりにも素っ頓狂な質問に気の利いた答えを返すことができなかった。





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