取り残されたのは僕で
進んでいくのは君だった




鸚鵡貝 Nautilus






気づいたら一人きり。
気づく前にいたのは誰?

*

狭乃。
狭乃には唯一一人だけ友人がいた。それが朝であり、もういない子だ。


朝は、名前と違って低血圧で”朝”はてんで駄目だった。
朝は、狭乃と違って小さく、ひょろりとした狭乃が隣にいるためか、 常に小さいという印象がつきまとっていて本人もそれを気にしていて、


「なァ、サノ。身長をおくれよ」



と口癖のように暇さえあれば唱えていた。


朝がいた頃、狭乃はもっと真面目で嘘吐きとかまるで真逆の位置にいた。 寧ろ、朝の方がお調子者で嘘吐きだった。


だけど、朝の嘘は狭乃の嘘と違って巫山戯て言うものだから 殆ど全く信じられることはなかったのだ。
敢えて言うのなら、朝の嘘を一番信じていたのは狭乃だった。




+ + + +





朝は外の話をよくした。街の外に何があるかが知りたかったのだろう。
街の周りは森と川が囲っていて外には簡単に出れなかった。



「サノ、僕は何時かここじゃないところに出て行くんだ」
「僕はそこで、何かをするんだ。」
「何かがわからなくても何かをすることになっているんだ」



そう言って、寮の相部屋で夜遅くまで話してた。
朝は何かを探していて、その何かがきっとこの街にはない物なのだろうなぁ、と狭乃は考えていた。


そうやって夜更かししながら話していると大抵先に瞼を閉じるのは朝で、 狭乃は朝が寝ると朝の話を脳裡で簡単に纏めている内に眠って朝になり、朝を起こすのだった。





+ + + +






この街は病んでいる。
この街は止んでいる。

*





きっと、朝は気づいていたんだ。

狭乃はふ、とそう思った。

朝がいなくなったのは覚えていた。
だけど、朝がいたこともいなくなったことも覚えているのは自分だけだった。 そして、朝が最後に話したことも覚えているのは自分だけなんだろう。


「ああ、別砂。聞いておくれ」


別砂に有ること無いことを吹き込むのは朝を忘れないためだ。 朝が嘘吐きだったから、自分も嘘を吐くことで朝を忘れないようにしている。

この街は、忘れることに関しては殊更、簡単だから


「この街は一寸可笑しいんだ」
「この街は、可笑しいんだよ」


「この街は必要ないと思った物を、根本から排除するんだ」
「街が必要ないものを排除するんだよ」


「この街はそう言う意志があるんだ」
「街に意志があるとしか僕には思えないんだ」


朝。朝が来る度に朝を思い出し、嘘を吐くたびに朝を思い出す。
相部屋のベッドには朝はいない。僕の相部屋は僕だけがいる。


きっと、朝は気づいていたんだ。


朝みたいにいたこともいなくなったことも覚えて貰えない存在がこの街に存在していることに。 きっと、僕も街に必要ないと感じられたら、何処かにいなくなって誰にも覚えて貰えないのだろう。




朝は、街の外に出れたのだろうか。







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